2024年7月23日火曜日

対角線の法則

2カ月ほど前、診療終了間際に5歳ぐらいの男の子を連れた女性が突然入って来て、意識朦朧とした感じで、2~3日前から左の奥歯が痛み始めて辛いので、治療して下さい、と訴えられました。見た様子が、余りにも痛々しくて、苦しそうでしたので、診させて頂きました。レントゲン写真を撮って見ましたが、どこにも虫歯は出来ていません。しかし御本人は、痛いと言っているのです。原因は?判りません。Oリングで調べると、右のTMJに反応が有ります。右偏位です。顎が右にずれて、右で咬んでいると言う事です。改めて、口腔内をよく見てみると、右下7番にクラウンが入っています。この7番の上下の咬合状態が異常でした。上の7番の舌側咬頭が異常に大きくしかも、咬合平面から下に飛び出しています。そもそも、萌出した時に上の7番が基準咬合平面から下に伸びて、生えて来たのだと思われます。従って、上の7番の咬頭が下の7番の中心窩にめり込むようにスッポリ入り込んだ咬合状態になっています。下7番が歯冠崩壊した後、クラウンを入れる時に、そのまま、前と同じ咬合状態にしてしまった。本来は下の7番の歯冠崩壊の原因であった上の7番の舌側咬頭を削って基準咬合面に揃えて、下の7番のクラウンを入れるべきでした。そのまま、メタルクラウンにしてしまった為に、完全に下顎がロックされて、右にバックさせられ、前方運動も、左側方運動も出来なくなってしまいました。顎運動の咬頭干渉が固定されてしまったのです。完全に右でしか咬めなくなった。しかし、これでは、余りにも辛いので、本能的に顎を左前方に動かして、左の6番で咬むようになった訳です。それで、今度は、左の奥歯が痛くなったと、言う事です。本当は右の上の7番の舌側咬頭が下がり過ぎているのが原因なのですが、応急処置として、下の7番のクラウンの中心窩の周りの辺縁部を、前方、左側方、右側方運動が出来るように、削除形態修正をしました。これだけで、右の咀嚼筋群の緊張が取れて、楽になります。尚且つ、左でも咀嚼できるようになるので、右咀嚼をしなくても、咬むことができ、食事が出来ます。この処置が終わった時、患者さんの解放されて緊張がとれて、楽になった表情が印象的でした。この様に、無意識のうちに反対側で咬む現象を対角線の法則と歯科では言いますが、この法則について、歯科界で語られることはほとんどありません。知られていないからです。咬み合わせの不思議な現象について、勉強している一部の歯科医師だけが知っている法則なのです。今回はそんな一般にはほとんど知られていない、しかし本当の歯科の法則について、紹介させて頂きました。

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